第1回 GRPIシンポジウム 開催報告 「SXを加速するサステナブル・ファッションの実践」
一般社団法人グローバル政策研究機構(GRPI)は、2025年11月17日、赤坂インターシティコンファレンスにて、第1回GRPIシンポジウム「SXを加速するサステナブル・ファッションの実践」を開催しました。
ファッション産業は、デザイン、生産、流通、販売、着用、そして廃棄に至るまで、バリューチェーン全体で膨大な資源とエネルギーを消費する産業です。ライフサイクルの短命化も加わり、その環境負荷は国際的な課題として指摘されています。
こうした中で、私たちの生活に不可欠な「衣服」について環境負荷を低減させる取組、サステナブル・ファッションが世界的に広がっています。これは、ファッション産業における SX (サステナビリティ・トランスフォーメーション)の実践そのものであり、社会課題の解決と企業活動を同期させる SX の理念を、最も生活者に近い領域で具現化する取組と言えます。
この SX を加速する原動力として近年最も期待されているのが、デジタル技術の活用です。AI をはじめとする技術革新や DX( デジタル・トランスフォーメーション)の進展により、素材開発、デザイン、需給予測、流通、販売、そしてリユース・リサイクルまで、バリューチェーンのあらゆる場面で変革が進みつつあります。
本シンポジウムでは、産業界、行政、アカデミアの多様なプレーヤーが参加し、バリューチェーンの各局面におけるDX等を活用したサステナブル・ファッションの最新の取組と今後の展望、そしてサステナブル・ファッションを支援する政府の取組について議論しました。
開催概要
テーマ: SXを加速するサステナブル・ファッションの実践
日時: 2025年11月17日(月) 14:00 – 18:00
会場: 赤坂インターシティコンファレンス the Amphitheater
形式: 対面
対象: サステナブル・ファッションにご関心のある事業者、業界団体、関係省庁・機関の 皆様
主催: 一般社団法人グローバル政策研究機構(GRPI)
プログラム
開場 13:30
開会 14:00
セッション 1 「DX等の活用によるデザイン、生産、流通、販売におけるSX」14:05 – 15:00
登壇者:
· 川崎和也 Synflux 代表取締役CEO
· 竹中謙正SHEIN JAPAN 公共政策本部長
· 山下徹也Re-Creation 専務理事
司会: 勝又 淳司 日本女子大学 家政学部 被服学科 専任講師
セッション2 「DX等の活用によるリユース・リサイクルにおけるSX」 15:00 – 15:55
登壇者:
· 今枝由梨英 メルカリ 経営戦略室政策企画 統括マネージャー
· 小安光司 伊藤忠ファッションシステム(ifs) 経営戦略室室長 サステナビリティ・コンサルタント
· 野村 晃裕 Free Standard 取締役
司会: 山口 大人
MASATO YAMAGUCHI DESIGN OFFICE 代表・デザイナー
ファッションビジネス学会 理事
セッション3:「サステナブル・ファッションを支援する政府の取り組み」 16:05 – 17:00
登壇者:
• 中村純典 経済産業省 文化創造産業課 課長補佐
• 山下大貴 経済産業省 製造産業局 生活製品課 課長補佐
• 村井 辰太朗 環境省 環境再生・資源循環局 資源循環課 課長補佐
司会: 黒田 岳士 一般社団法人グローバル政策研究機構(GRPI) 代表理事
ネットワーキング 17:00 - 18:00
セッションサマリー
【セッション1:DX等の活用によるデザイン、生産、流通、販売におけるSX】
DXにより環境負荷を低減させる取組事例として、サプライチェーンの徹底的なデジタル化によるオンデマンド生産を通じた在庫率と廃棄率の抑制、AIや3D技術を用いて型紙を自動生成することによる端材の廃棄量の大幅な削減といった取組が報告されました。また、事業者によるこのような環境負荷低減への取組を認証マークやQRコードを通じて消費者に届ける取組も行われています。
日本で出回っている衣服はほぼ海外で生産されたものであり、サプライチェーンがグローバルに展開されていることから、海外の市場や規制に関連した議論が活発に行われました。
サプライチェーンを相手にした事業を意識すると、最初からグローバルな展開を前提として設計しなければならない旨の指摘がありました。イノベーションに向けた研究開発を強化するとともに、オンラインでサプライチェーン全体をつなぎデジタルデータとして可視化する取組が紹介されました。海外の生産拠点における生産性向上や従業員の生活向上も含めた支援も行われています。
EUではデザインの段階から廃棄までの衣服のライフサイクル全体にわたる規制が強化されています。EUにおけるこうした取組を無理なく自社に落とし込むためのツールを経済産業省と共同開発した旨の報告がありました。
川上部門の技術でビジネスを展開しようとすると、市場構造や規模の関係で海外市場への展開が視野に入りますが、日本国内では、環境負荷低減への取組についての議論が欧米レベルに達していない点が足枷になりかねず、情報支援や人材育成が必要だという指摘がありました。他方、海外に合わせるだけではなく、日本という国が何を目指しているのかミッションとして先に掲げるべきである旨の提案がありました。
【セッション2:DX等の活用によるリユース・リサイクルにおけるSX】
1年以上袖を通していない洋服など、家庭内で理由もなく保管されている不要品を金額換算したいわゆる「かくれ資産」は66兆円に達するという指摘がありました。
こうした中、一定金額以上の自社ブランド製品をユーザーから買い取って再販売する動きが広がっています。買取の際には現金ではなく、ポイントやクーポンが活用されています。こうした取組をスタートアップが支えており、リユース業界に優秀な人材が参入している動きが確認されました。
依然として家庭でゴミとして廃棄される衣類の量はまだまだ多く、「家庭から廃棄される衣類の量を2030年度までに2020年度比で25%削減(約12万トン)」という目標への認識を全世代へ広げていく必要性が指摘されました。
量販品のリユースについては、オンラインマーケットプレイスが重要な役割を果たしていますが、リユースを更に促進するために、製品や参加者に関するデータを官民の関係者が連携して管理すべき旨の提案がありました。
日本のリユース・ファッション市場は1兆円程度の規模があると言われている一方、衣類のリユース・リサイクルの行き先として、その多くを輸出に頼っています。
リサイクルについては、特に複合素材の扱いに技術的課題があることから、そのための技術開発と、最初からリサイクルしやすい製品を設計するリサイクル設計を両輪として推進する政策支援の必要性が指摘されました。
企業によるリユース・リサイクルへの取組を数値化し、開示することで、企業の取組を加速できる可能性が指摘されるとともに、モノづくりからリユース・リサイクルを経て再びモノづくりへとつなげるプラットフォームの構築の必要性が共有されました。
【セッション3:サステナブル・ファッションを支援する政府の取組】
ファッション産業に関する望ましい未来像の提示とこれを担う人材育成や事業開発への支援といった経済産業省の取組とともに、日本の繊維産業の現状と課題や繊維製品における資源循環ロードマップの内容について説明がありました。環境省においてはリユース・リサイクルを推進する組織が強化され、リユース等の促進に関するロードマップや衣類廃棄量の削減目標に向けたアクションプランそれぞれの検討状況について説明がありました。
サステナブル・ファッションは欧州が先行しているといわれていますが、法体系の違いもあり、欧州の規制のあり方と日本の制度との違いについて説明がありました。
リサイクルについては、日本の強みである素材の風合い等は複合素材により実現されるため、日本の強みを活かした取組のあり方について業界と対話を深めている旨の報告がありました。
政府の支援に対する期待については、政府全体の中で「資源循環」という分野の重要度が高まる一方、繊維産業としてみると産業全体に占めるウェートが高くないことも踏まえ、ビジョンの提示や人的ネットワーク形成も含めた様々な政策ツールを駆使して対応していく旨の決意が示されました。
サステナブル・ファッションを実践する上では、生活者(消費者)の行動変容が重要であることから、当日欠席した消費者庁も交えて、消費者政策、産業政策、環境政策それぞれの視点から議論をすべきであったという感想もありました。